「今」のいきかた 平成30年8月

 8月は「葉落ちる月」であることから「葉月」と言われました。「今は緑も盛りで葉が落ちるなんてとんでもない」とお思いでしょうが、これは旧暦の話です。今の暦では8月末から10月初めに相当するようです。
 北海道にある落葉樹と言えばシラカバ、ナナカマド、イタヤカエデ、特に多いのがヤチダモです。これらの木々が新緑と茂るのは6月に入ってからです。わずか数か月ですが、枝に葉を茂らせて10月には葉を散らします。なるほどこれに台風時期も重なれば、葉が散るのはまさしく8月、「葉月」ではないでしょうか。暦の上では8月初旬に早くも立秋と秋が始まるのもうなずけます。
「寒さで花の咲かぬ日は下へ下へと根をのばせ」と言います。私たちも落葉樹なのです。常に今を盛りに葉を茂らせることはできません。順風満帆ではありません。家でも家の外でも、良い時も悪い時もあり、何事も実を結ぶことが大変な日常です。だからと言ってあきらめてはいけません。なすべきことは人それぞれです。自分が今なすべきことはいったい何なのか考え、そのなすべきことを実直に続ける事が、下へ下へと根を広く伸ばすことであり、いつしか葉を茂らせ、花を咲かせ実を結び、昨年より大きく成長することにつながるのです。
 何事もすべてお任せ、運任せではない。どんな人にも日々の地道な積み重ねがあって、ある時花開き、結果を出すことにつながってきたのです。また、残念ながら結果は出なくとも、周りの人は精一杯に取り組む姿を見て、あなたを認めます。そしてあなた自身も納得し次に向かうことができるのです。
 お念仏の結果は保障されています。「阿弥陀仏」という「仏」の真理だからです。「南無阿弥陀仏」とお念仏を称えれば百人中百人が極楽浄土に往生します。しかし、地獄へ行かない、悪道に落ちないからと言って、あぐらをかくのではない。大事なのはこの日常をお念仏と共に生活することです。生きているあなたの「今のいき方」です。自分を戒め、悪を廃し善を修め、他に尽くす。生涯をかけて実直にお念仏を称え続けることで、日常の何事も正しい行いとなり、誰しもに感謝の気持ちを持って生活することができるのです。つまりは、仏さまやご先祖さまに常に見守られて生かされた、信心決定の穏やかな日常を過ごす事ができるのです。

ときは今 ところあしもとそのことに
うちこむ命とわの みいのち

増上寺第八十二世法主 椎尾辨匤大僧正台下御作