今年も早いもので10月を迎え、北海道には少しずつ冬が訪れようとしています。
道内最高峰の旭岳を有する大雪山の山々にも一足早く雪が積もり、まさに名前の通りの姿となり始めているところです。
仏教の昔話に、この大雪山のような雪深い山を舞台にした、雪山童子(せっせんどうじ)というある修行者の物語があります。
昔々、雪山童子が雪深い山で修行していると、どこからともなく、
「諸行無常(しょぎょうむじょう) 是生滅法(ぜしょうめっぽう)(すべてのものは移り変わり、生じては滅びてゆく)」
という、この世の真理を説く有難い言葉が聞こえてきました。
続きの言葉が気になる雪山童子がその声のする方を探すと、声の主はなんとも恐ろしい姿をした鬼で、
「言葉の続きが聞きたければ、お前を食べさせろ。」
と、とんでもないことを言います。
しかし、真理を求める心の強い雪山童子には、全くためらいはありません。
鬼との約束を交わした雪山童子は、
「生滅滅已(しょうめつめつい) 寂滅為楽(じゃくめついらく)(その移り変わりや生滅を超えた先に、安らかな悟りの境地がある)」
という続きの言葉を聞くやいなや木に登り、命を絶つためにそこから身を投げます。
雪山童子が地面に叩きつけられるまさにその時、抱きかかえるようにして命を救ってくれたのは、なんと自らの命を奪おうとしていたその鬼でした。
実は、鬼の正体は帝釈天という神様で、雪山童子のことを試す為にこのような芝居をしていたという訳です。
命を投げ出しても真理を求める雪山童子の姿に心を打たれた帝釈天は、
「騙すような真似をしてすみません。あなた程尊い方は見たことがありません。あなたこそ真に道を求める人です。」
と、雪山童子を讃えたというお話です。
雪山童子の行いは、真似することはもちろん、今の世間の道徳観から考えると、理解することも難しいかもしれません。
しかし、本当に大事な事の為には、命をも懸けるその強烈な姿には、ついつい毎日を惰性で送ってしまう私達になにか訴えかけるものを感じます。
否が応でも、寒さで身の引き締まるこれからの季節ですが、大雪山の山々を眺め雪山童子を思うと、より一層その思いが強くなります。